解析シーケンス |
解析シーケンスとは、複数の時間区間で、それぞれの区間で最適なピーク検出方法と検出条件を一連のシーケンスとして記録して、類似の波形のクロマトデータの解析に適用する方法です。
複雑な波形のクロマトデータは、全区間に対して一義的なピーク検出条件を決めることが難しい場合があります。
必要なピークだけを検出する場合や、ピークごとに最適な解析条件を設定する場合に便利な機能です。
解析シーケンスの操作手順に関しては解析−解析シーケンス
を参照してください。
以下、解析シーケンスで使用される機能と動作原理について説明します。
■部分解析
区分カーソルで指定された範囲で、波形解析を実行します。
○必要なピークだけを検出する
リテンションタイム1分付近と、3分付近のピークを検出した例です。
グラフ-1:0.9min〜1.35minの間で部分解析実行
グラフ-2:2.6min〜3.1minの間で部分解析
区間ごとにスロープの設定を変えていき、リテンションタイムの長いピークに対しても適正なピークスタート・エンドが設定できるようにした例です。
ピーク1〜2の区間のスロープ:80uV/sec
ピーク3〜4の区間のスロープ:70uV/sec
ピーク5〜6の区間のスロープ:60uV/sec
※リテンションタイムの長いピークほど、スロープの値が低くなるように設定しています。
グラフ-3:DWT:0、リテンションタイムが長くなるほどスロープ値を低く設定
解析シーケンステーブル
※区間毎に検出条件を変える場合は、デフォルトのチェックマークを外します。
○解析範囲について
新しい解析区間が、既に解析済みのピークを含む場合は、以下の条件を満たすピークが再計算されます。
・ベースラインのスタートとエンドが新しい解析区間に含まれるピークは、新しい解析条件で再解析される。
・ベースラインのスタートまたはエンドのどちらかが、新しい解析区間から外れているピークは再解析されない。
下記は、2.4min〜7.6minの区間をスロープ100uV/secで部分解析した後、6min〜8.8minの区間をスロープ60uV/secで解析した例です。
グラフ-5では、ピーク5はベース区間が解析区間に含まれているので新しい解析条件で再解析されていますが、ピーク4は、ベーススタートが解析区間から外れているために再解析されません。
グラフ-4:スロープ:100uV/sec 区間2.4min〜7.6min
グラフ-5:スロープ:60uV/sec 区間6min〜8.8min
○ベースラインの設定
グラフ-6の波形は、全範囲で解析を実行すると、ひとつのベースライン上に不分離のピークが複数個存在しています。
グラフ-6
解析区間を2.2min〜4.4minとすることで、ベースラインをグラフ18のように引き直す事ができます。
グラフ-7
○ベースライン決定の原理
@解析区間内で、クロマトグラムに交わらない接線を引きます。(グラフ-8)
グラフ-8
A各接線とクロマトグラムとの接点を、ベーススタート・ベースエンドポイントとします。
B不分離ピークのベーススタート位置と、右側の区分カーソルとクロマトグラムとの交点を通る補助線を引きます。
C不分離ピークの極小値が、補助線と交わる場合は、極小値を接点とするベースラインを引き直します。グラフ-9
グラフ-9
ピーク4〜ピーク5のクロマトグラムが、補助線と交差しているので、それぞれのピークが完全分離ピークとなるようにベースラインを引き直します。
グラフ-10のように解析区間を設定した場合は、ピーク4〜5のクロマトグラムが補助線と交差しないので、ピーク4,ピーク5は不分離ピークとなります。
グラフ-10 区間1.6min〜2.7minで部分解析
さらにピーク8〜ピーク10を検出する場合は、ピーク7以降の区間で部分解析を行ってください。
グラフ-11 区間2.5min〜4.5minで部分解析
解析シーケンステーブル
※上記の例は、ドリフトファクタを0にした場合のピーク検出の結果です。
ドリフトファクタに大きな値を設定すると、補助線と、クロマトグラムの極小点が交差しない場合でも完全分離ピークとなります。
■部分削除
解析済みのピークを選択して削除します。
削除するピークのピークトップが、区分カーソル内に入るように設定して、【部分削除】ボタンを押します。
○指定区間のピーク削除
指定範囲に含まれるピークが削除されます。
グラフ-12 7番と8番のピークを除去
グラフ-13
○指定区間のショルダーピークの削除
指定範囲に含まれるショルダーピークが削除されます。
グラフ-14 2番と3番のショルダーピークを除去
グラフ-15
○親ピークの削除
親ピークを削除すると、親ピークに属する、全てのショルダーピークは削除されます。
グラフ-16 ショルダーピーク2番〜5番の親ピーク(1番)を除去
グラフ-17 親ピークとショルダーピークが削除
○特定の領域の波形処理を抑止する方法
部分削除機能を使うと、特定の領域の波形処理を抑止する事ができます。
@
14分から28分の間で波形処理を行います。
解析を行う範囲をカーソルで指定して、【部分解析】ボタンを押します。
グラフ-18 区間14min〜28minで部分解析
A
16分から、19分の間の波形処理を抑止する場合は、抑止する範囲をカーソルで囲み、【部分削除】ボタンを押します。
グラフ-19 区間16min〜19minで部分削除
B
特定区間の波形処理が抑止された波形化処理結果
グラフ-20
解析シーケンステーブル
テーリング上のショルダーピークを検出します。
グラフ-15のピークは、1.2min〜3.6minの解析範囲で部分解析を実行すると、ピーク1〜ピーク4は不分離ピークとして検出されます。
グラフ-21 区間1.2min〜3.6minで部分解析
1.2min〜3.6minの範囲で部分解析実行後、同じ範囲で【テーリング】ボタンを押下すると、ピーク2〜ピーク4はピーク1のショルダーピークとして検出されます。
※テーリングを行う前に、予め部分解析を実行して、テーリングするピークを検出してください。
グラフ-22 区間1.2min〜3.6minでテーリング
解析シーケンステーブルの表示
テーリングは、解析範囲内で一番ピーク高さの大きいピークを親ピークと認識して、そこからベースエンド、または右側の区分カーソルまでの区間のピークをショルダーピークとして検出します。
グラフ-17のように、親ピーク2のリーディング上に、親ピークよりピーク高さの大きいピーク1が存在すると、親ピークをショルダーピークとして認識してしまいます。
グラフ-23 親ピーク2より、ピーク高さの大きいピーク1が存在する場合
グラフ-18:親ピーク2をショルダーピークとして認識
このような波形の場合は、解析開始側の区分カーソルを親ピークの手前に移動してテーリングを実行します。
解析開始側の区分カーソル位置から最初に検出されたピークを親ピークとして認識します。
グラフ-24 区間2.4min〜3.7minでテーリング
解析シーケンステーブル
リーディング上のショルダーピークを検出します。
テーリングの時とは逆に、解析終了側の区分カーソルの直前のピークを親ピークとして認識します。
グラフ-20の例では、解析終了側の区分カーソルをピーク2とピーク3の間に移動して、【リーディング】ボタンを押下すると、ピーク1が、ピーク2を親ピークとしたショルダーピークとして検出されます。
グラフ-25 区間1.4min〜2.6minでリーディング
解析シーケンステーブル
■谷渡り
解析区間内で検出されたピークを強制的に完全分離ピークとして検出します。
下記の例は、ピーク1〜ピーク3を垂直分割、ピーク4〜ピーク6を谷渡りとなるような解析シーケンスです。
グラフ-21では、解析区間を設定して、【部分解析】ボタンを押下します。
グラフ-22では、解析区間を設定し、【谷渡り】ボタンを押下します。
※ドリフトファクタの値が大きいと、「部分解析」で、谷渡りとなる場合があります。
グラフ-26 区間0.8min〜2.8minで部分解析
グラフ-27 区間2.8min〜4.9minで谷渡り
解析シーケンステーブル
垂直分割されたピークを強制的に谷渡りにすることもできます。
全区間を指定して、部分解析を実行します。
グラフ-28 全区間で部分解析
谷渡りとするピークのベーススタート・ベースエンドが区分カーソル内に入るように、区分カーソルを設定して、【谷渡り】ボタンを押します。
グラフ-29 区間2.8min〜4.7minで谷渡り
解析シーケンステーブル
「谷渡り」機能により、不分離状態のショルダーピークを分離することもできます。
グラフ-30 ショルダーピーク2〜3は不分離ピーク
ショルダーピーク2〜3のショルダーベースを含むように区分カーソルを設定し、【谷渡り】ボタンを押下します。
グラフ31 ショルダーピーク2〜3を分離
解析シーケンステーブル
ネガティブピークを検出します。
ネガティブピークを含む領域を波形解析すると、ネガティブピークをベーススタートポイント、またはベースエンドポイントと認識してしまう場合があります。
(グラフ-27)
このような波形では、ネガティブピークを除いて通常の波形解析を行い、ネガティブピークは別途「ネガティブピーク」機能により検出します。
グラフ-32 区間0.8min〜4.6minで部分解析
ピーク1〜3を「部分解析」機能により検出
グラフ-33 区間0.8min〜2.8minで部分解析
ピーク5〜6を「部分解析」機能で検出
グラフ-34 区間3.2min〜4.4minで部分解析
ネガティブピークを選択して、【ネガティブピーク】ボタン押します。
グラフ-35 区間2.8〜3.2でネガティブピーク検出
解析シーケンステーブル